WWDジャパン編集長  
     
  山室一幸 氏  

ファッション業界誌の中でもセンスの良さと魅力的なコンテンツで注目を集めるWWD。 常に時代をリードし続けるミッションを担うメディアのキーマンとして今回はWWDジャパン新編集長の山室一幸氏にお話を伺いました。

*あこがれのファッション業界

Q プロフィールについてお聞かせいただけますでしょうか。

A 「信じられない」とよく言われるのですが、学生時代は理工科を専攻していたのでファッションとはかけ離れたことをしていました。でもその頃からファッション業界って「モテルだろうな」とか「カッコイイな」といった不純ながらも漠然とした憧れというのがあったのです。(笑)卒業後、ファッション業界で働くことに決め入社した会社で、まずは秘書室で経営に関することを覚えることからスタートしました。秘書室にいながらもメディアに強い関心があったので、タイムカードを押した後は、色々なところへ出入りするようになっていき、社外の方々と交流する機会も増えました。とにかくその空間にいるのが楽しく付き合いを深めているうちに、“面白い奴だなぁ”と思ってもらえるようになっていきました。やがて、コレクションの開催などに関わりながら当時の著名な日本人クリエイターとも親交を深めていくことになります。

Q  “ファッション通信”は当時画期的な番組でしたね。

A 当時、世間のファッションショーに対するイメージといえば、モデルの胸元が見えそうとか衣装が透けそうなどといったゴシップや、中途半端なファッションチェックなど週刊誌的な扱いばかりでした。世間の皆様にファッションとはどういうものなのかを真面目に伝えないといけない・・・そう感じたのが25歳のときでした。
  どうせやるならしっかりしたものをやるべきだと思い、大内順子先生に頼み込み、番組出演の了解をいただきました。前例のない取り組みでしたから全てが一からのスタートでした。企画書を持って自分の足で、各TV局を回りましたね。どうにか番組の枠をいただくところまで漕ぎ付けたのですが、条件としてスポンサーを見つけてくださいという宿題をいただきました(笑)。そして、ようやく'85年11月に『ファッション通信』を立ち上げることが出来ました。当時の私はコレクションの取材に立ち会ったことがなかったのですが、スタッフの方々がファッションに関して専門ではなかったのでパリコレの取材に行くことを決めました。実際に目の前で見る“オートクチュール”にこれほどまでに感動するものかと驚きましたね。コレクションはシバンシーやシャネル、カール・ラガーフェルド、ニナ・リッチ等の名立たるデザイナーによるものだったのですが、私はその21人の大物デザイナーにアポイントもない状態で、突撃インタビューを行いました。デザイナーからコメントを取ることは難しいと予測していたので、質問は全て同じ内容でいこう!と決めていました。その質問とは、「あなたにとってオートクチュールとは何ですか?」。
  最も印象に残っているのは、最後にインタビューをしたイヴ・サンローランでした。イヴ・サンローランにアポイントなしでインタビューをするなど、今考えるとぞっとしますが、彼は私達の質問に「It's・・・」と言ったまま黙り込んでしまい、確か30秒程度の沈黙だったはずです。私には何時間にも感じました。何故なら彼の周りには、錚々たるスタッフと顧客のモデルなど大勢の人が待っています。そして彼は沈黙の後、こう呟きました。「It's my heart.」と。周りを取り囲む人々からは拍手喝采、私も涙が止まらなかったですね。そして、この瞬間、この言葉のリアリティや表情を、ストレートにそしてドキュメントとして未来の映像に記録していかねばならないことを確信したのです

*二極化するファッションの役割

Q 加速度的に多様化しているファッション業界ですが、今後はどうなっていくと思われますか?

A 「リアルに伝えられる“映像”というものを20年間やってきました。その間、世界的に色々な問題や出来事がありました。事件が起こるたびに「こんなときにファッションをやっていていいのか?」と自問することもありました。しかし、例えば9.11後も、多くのクリエイターがそれに対して想いを込めた服を作ったし、それに救われた人も大勢いました。
  考えてみると日常から離すことのできないファッションは、どんなに悲惨な出来事があろうとも必然的に続いていくのです。そこで喜びや夢を見出せるのはやはりファッションからなのですよね。ファッションとは“夢を与える”もの・・・そう考えることでようやく「だからファッションなのだ」と思えることができました。
  近頃のファッションにおいて、ブランドが本来持つべきものが略されている気がします。希薄になっている部分があることを否定できません。
  今ファッションは両極化し始めている。ラグジュアリー(サービスも含めて新しいもの)を求める世代ともっと若くてゆるい世代。ラグジュアリーを求める世代は様々なサービスを含めて、一層新しいものにも特化していくと思いますが、ゆるい暮らしを送っている世代に何がフィットしていくのか、その辺りはまだ見えてない状態です。
  何故ならトレンドを追求し続けるファッションもビジネスとして必要な場合もありますし、その服を買う一人一人は“可愛いから”という理由だけで十分なのかもしれません。

Q 紙面で伝えていきたい事は?

A 今年の5月に以前から憧れていた「WWD」の編集長に就任致したのですが、ジャーナリズムとして伝えていくためには活字という中で表現したいと感じるようになって。毎回コラムを出しているのですが、そちらでも第1回目は“ジャーナリズムの真贋”という題目でした。世界の背景を踏まえながら、それ言葉としていかに表現していくのか。言葉に対する責任感を常にも持っていないといけません。よくトップスクープ!という切り口で記事を載せている雑誌を目にしますが、いわゆる“トップ屋”みたいな事はしたくない。
  物事に対して良し悪しを評するものではないのです。評することの基準はクリエーションに対する品性です。ファッションとは情操教育だと思っています。ファッションと正しく付き合って欲しい、正しい出会い方をして欲しいという想いがありますね。
  ビジネスという切り口やラグジュアリーブランド、ストリートファッション、少女マンガに至るまで、様々な面からみたときに、どれだけパースペクティブをもってやれるかということだと思います。
  雑誌はニュートラルなものなので、時代の気分をどういち早くつかめるか。エンターテインメントとしてのジャーナリズムを追求していきたいですね。

*必要なのはセルフプロデュース力

Q PRや雑誌編集といったお仕事を志す読者へメッセージをお願いします。

A 夢を叶えるのにマニュアルはありません。ただ、外見力・・・いわゆる“見てくれ”が持っている情報的な要素はファッション業界で仕事をする上でとても重要だと思いますね。
  まず“セルフプロデュース”のスキル、その上で総合的な力が必要です。ただのファッションバカではいけません。ありとあらゆる情報に興味を持ち常にアンテナを張らないといけないし、情報に精通していないといけない。普通の人と同じことをしていたら、それは普通のアタッシュ・ド・プレスやエディターにしかなり得ないので、秀でるには自分の不純な部分を隠さず、いかにセルフプロデュースができるか、日本人の謙虚さや品性を持ちながら自分をプロデュースできるかが鍵だと思いますね。ファッション業界では、40代半ばあたりで先がないという状況が多々見受けられます。しかし、経営学を学ぶなど違った角度で新たなことに挑み、先を目指していくことが必要だし、道を開くことにもつながります。トップマネージャーになるには、これから先何を勉強しないといけないかを考え、行動することが重要となってくると思います。

“セルフプロデュース”とおっしゃる言葉通り、インタビュー当日はゴールドのジャケットで登場した山室氏。そのインパクトもさることながら、話の内容や喋り方も相手に対する気遣いを感じさせてくれる方でした。夢を叶えるために必要な“想い”を与えていただいたインタビューはとても印象深いものとなりました。

text:AKIKO TEJIMA
edit:KENJI WATANABE